リクルートが、シリコンバレーおよび東京から著名なグロースの専門家を招聘し、連続のミートアップ・シリーズを開催するリクルートGrowth Hacker Month。
先日、最終回となる第4回のMeetupが開かれ、スピーカーとしてNir Eyal氏が登壇してくれた。
Nir Eyal氏は、グロースハックの必須分野である消費者行動心理学の専門家。 グロースのアドバイスを行うコンサルティングファームを創業し、500 Startupsを始め、スタートアップや大企業の支援を行っている。 先日、自身の理論をまとめた「hooked」という書籍を出版し、既にすさまじい勢いで売れている。 (近く、日本語版も出るそう) 引用:リクルートGrowth Hacker Month 第4回
彼の提唱する「hooked」というモデルは、ユーザーがついそのプロダクトを使ってしまうという"習慣"を形成するための理論であり、オンライン、オフライン問わず、さまざまなサービスに応用できる。
当ブログでは、前編、後編の2回に分けて、彼の「hooked」モデルを紹介したいと思います。
(Meetupの翌日、NirはVASILYに遊びに来てくれて、好物の寿司を食べながら、iQONを習慣化する施策についてアドバイスをくれたのだが、あまりに的を得ていて改めて驚いてしまった。内容は後日紹介)
グロースハックって何って方はこちらの記事をどうぞ。 「グロースハック」とは
「hooked」モデルが生まれた背景
これらのサービスにはある共通点がある。
それは、顧客に"習慣"を提供するのに成功していることだ。
私達が、これらのサービスのサイトやアプリを立ち上げるのは、"何となく"という場合が多いのでは、ないでしょうか?
そして、我々サービス提供者は、その"何となく"、つまり"習慣"を欲してやまない訳ですが、 Nirはそれらのサービスを調査し、それをスタンフォードのマスターで教える中で、それらのサービスの"習慣"形成には"あるパターン"が存在することに気づきました。
そして、その"あるパターン"をその他のサービスに応用可能なモデルにしたのが、この「hooked」です。
「hooked」は、以下の4つのステップから構成されています。
「hooked」モデルの4つのステップ
1,トリガー 2,アクション 3,リワード 4,インベストメント
という4つのステップがあり、これらが以下の図のようにサイクルとして回るようになると、そのプロダクトはユーザーの"習慣"として取り込まれていくことになる。
1つめのステップ:トリガー
貝の中で真珠ができる過程のように、層として形成される。
新しい習慣を身につける際、以前からある習慣に付加される形で、徐々に取り込まれていく。
そして、その土台となるものが、"トリガー"とNirが呼ぶものである。
トリガーには内的トリガーと、外的トリガーがある。 外的トリガーとは、環境のことである。
「Buy now!」「Click!」などのボタンや、プッシュ通知や、通知メールなど、次に何をするべきかを顧客に教えるものが外的トリガーである。
そしてグロースハッカーとは、この外的トリガーを最適化する行為とも言える。
グロースハッカーやデザイナーは、この外的トリガーに常に関わっているので、十分理解しているだろうが、馴染みが薄いのが、以下の内的トリガーである。 内的トリガーとは、感情である。
それもユーザーの記憶と関連し、次のアクションを無意識的に決める感情である。
一つ、例を示そう。
ある大学のリサーチで、人は落ち込んでいる時ほど、メールを頻繁にチェックするということが分かった。
それはなぜか?
なぜならメールが人を落ち込ませるからだ!というジョークがあったが、それはもちろん違う。
なぜなら人は、落ち込んだときに人との繋がりを求めるという習性がある。
つまり、気分が落ち込んでいるときに、メールを使って気分を上げようとするのだ。 理解しやすいようにもっと例を出してみよう。
孤独を感じた時は、どんなサービスを使うか? Facebookを開くだろう。
何かある情報を聞いて分からないときは? Googleを開くだろう。
退屈なときは? Youtubeを開くだろう。 このようにネガティブな感情があるときは、一時的にそれから離れようと、特定のプロダクトが使われる。
では、そのような内的トリガーを形成するためには、どうしたら良いか?
まず、自身のプロダクトの内的トリガー、つまりネガティブな感情は何かを特定することだ。
これは顧客に直接聞いても答えは得られないので、質問を工夫して聞き出すべきだ。 最後に、くどいようだが、Instagaramの例も見てみよう。
最後にInstagramで投稿したのはいつでしたか?
料理の写真を投稿したのが最後という女性がいましたが、その料理が「私を撮って!」と言ったわけではないはずです。
そうではなく、彼女の記憶の中に、ある一瞬をInstagramで撮って、課題を解決した記憶があったからだ。
つまり、モーメントを記録したいと思った時にInstagramがアンサーになる、という記憶だ。
似たような話で、コダックモーメントというものがある。
カメラメーカーのKodakが、100年以上かけてCMなどを通して構築したもので、 子どもの誕生日など、特定のシーンで写真を撮る、という刷り込みをKodakは意図的にしてきたのだ。
Instagramは広告をやっていないが、コダックモーメントと同じようなメカニズムが働いていると言える。
友人がInstagramで撮った写真がInstagram内や、Facebook、Twitterなどで流れてくることで、"どういう瞬間に撮ればいいか"が刷り込ませていく。
もうお分かりのように、これもひとつの内的トリガーである。
2つめのステップ:アクション
アクションとは、3つめのステップであるリワードに対する、シンプルな行動のことである。
例えば、スクロール、検索する、再生ボタンを押すなど。
ここで、BJ Foggという人物が唱えたBehavior Model(行動モデル)というものを紹介したい。
「行動=モチベーション+アビリティ+トリガー」
すなわち、ある行動を人が起こすためには、「その行動をしたいと思うか、その行動はどれだけ簡単か、トリガーがあるか」という3つが必要であるというものである。 これはオンライン、オフライン問わず適用できる。
以下でそれぞれについて詳述する。 モチベーションに関しては、長いこと研究がされており、以下の6つのレバーがあることが分かっている。
1,喜びを求める 2,痛みを避ける 3,希望を求める 4,恐れを避ける 5,社会的承認を望む 6,拒否を嫌がる
広告をよく見てみると、1つか2つ以上のレバーが必ず入っている。
したがって適切なレバーを選ぶことが必要だ。 "どんな行動が取れるかと、それがどれだけ簡単か"というアビリティも、モチベーションと並んで重要である。
スタートアップでは、アビリティを活用してモチベーションを上げていくこともできる。
起こす行動が簡単なほど、頻繁な行動を生む。
アビリティを高めるためには、以下の6つを減らすことを考えると良い。
1,時間 2,お金 3,身体的努力 4,考える手間(どれだけ難しいと感じるか) 5,社会的逸脱(その行動をきちんと他の人がどれだけ行っているか) 6,ルーティンでないこと(過去にそれを行った経験が多いか)
これらを減らすことは、凄く重要なことだ。
なぜなら、ある人がある行動を起こせば起こすほど、将来的にもそれを行う可能性は上がっていくからだ。
モチベーション、アビリティ、トリガーの3つを理解したら、これらを以下のような図で評価することが必要だ。
例えば、電話がかかってきて、それを取るという行動が起きるかを考えてみよう。
この場合、電話のコールが間違いなくトリガーである。
たとえ、その電話が好きな異性からでモチベーションが高くても、電話に出るための操作が複雑でアビリティが低ければ、電話はとられない。
逆に、アビリティは高くても、仕事の依頼が入るのを嫌がるなど、モチベーションが低い場合も電話は取られない。
トリガーがきちんと発生し、なおかつモチベーションとアビリティが十分高い場合に初めて、顧客に"アクション"を取らせることが可能になる。
追記:
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